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【森見登美彦ファン必読】おすすめの小説『四畳半タイムマシンブルース』

この記事は以下のような人におすすめ!
・森見登美彦好きな人
・サマータイムマシンブルースが好きな人
・暇を持て余した大学生

たぬきち
たぬきち
森見登美彦さんの新作『四畳半タイムマシンブルース』をレビューしています!

一番好きな作家は誰かと訊かれたら、僕は迷わず「森見登美彦」と答える。

それくらい、森見登美彦の書く作品が好きだ。

好きなポイントはいくつかあるのだが、特に好きなのは、その文体。一見すると、小難しい言葉が並べられた堅苦しい文章なのだが、読んでみると、軽妙でリズミカル。なんとも声に出して読みたくなる文章だ(それも早口で)。

アニメ「四畳半神話大系」の、主人公「私」の語り口たるや、多くの森見ファンが黙読中に頭の中で読み上げていた「声」に、ぴったりイメージが一致したことだろう。セリフを聞いていて、とても心地がよかった。

他にも森見作品の素晴らしいところはいくつもあるが、一旦そのあたりの説明は端折ることにする。

翻って、じゃあ逆にイマイチなところを挙げるとすれば、それは遅筆である点だ。刊行ペースが非常にスローなのだ。

森見さん本人がやっているブログもたまに拝見しているのだが(これも更新頻度はかなり低い)、それを見る限り、次の作品が出るのはいったいいつなのだろう?もしかしらあと何年もずっと出ないのでは?と考えてしまう。

もちろんそんなところもあって、ファンとしてはなおさら新作を楽しみにしてしまうのだが、期間があまりに長すぎると、忙しい日常生活の中で、つい、作家「森見登美彦」の存在を忘れてしまうのだ。実は僕も忘れかけていた。

多くの森見ファンの中には、そんな僕のような人たちが少なからずいるのではないかと思う。今日はそのような人たちに伝えたい。

森見登美彦の新作、今年の7月に発売されてます!

そのタイトルは、『四畳半タイムマシンブルース』!

タイトルに「四畳半」と入っていて、読まないわけにはいかないだろう。
もし発売に気づいていない方がいたら、今すぐ買って、読んでほしい。

でもその前に、少しだけ『四畳半タイムマシンブルース』の紹介と、僕の語る森見登美彦“愛”も読んでいってほしい。

それでは、どうぞ。

作品概要


『四畳半タイムマシンブルース』
発行所:KADOKAWA
著者:森見登美彦
原案:上田誠
発売日:2020年7月

『四畳半タイムマシンブルース』の面白さ

記事冒頭、「新作が出た」と書いたが、正確に言うと、完全なる新作ではない。

今回のタイトルと原案者の名前を見ていただくと分かる通り、本作は、劇作家・脚本家である上田誠の戯曲作品「サマータイムマシンブルース」を原案として、森見登美彦の過去作品である『四畳半神話大系』にもとづき、執筆された作品だ。オリジナル作品ということになってはいるが、かなりしっかりその2作を下敷きに書かれている。

あらすじ

舞台は真夏の京都。主人公の「私」は、大学3回生。下宿先のボロアパートにて、タクラマカン砂漠のごとき炎熱地獄と化した京都の夏を、どうやって乗り切ろうかと考えていた矢先、アパート内に唯一あるエアコンが動かなくなった。

原因は、リモコンの水没。妖怪のごとき悪友・小津の仕業だ。エアコンという文明の利器を失って、いったいどうやって残りの夏を過ごせというのか?「私」がひそかに想いを寄せる一年後輩の「明石さん」と対策を協議しているとき、どこからともなく、なんともモッサリした風貌の男子学生が現れた。

話を聞けば、彼はなんと25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたという。そのとき「私」は閃いた。その男子学生が乗ってきたタイムマシンを借りて、昨日に戻り、まだ水没する前のエアコンのリモコンを持ってくればいい!

かくして、暇を持て余したクサレ大学生の世紀のタイムトラベルが始まった!

絶対に読むべき理由

先に結論を言うと、最高に面白い。自分が大学生だった頃の夏に戻れたような気がして、終始ワクワクしながら読み切った。

あらすじを読んでいただけると分かる通り、森見ファンならよく知るメンバーが揃い踏みだ。「私」「小津」「明石さん」はもちろんこと、「樋口氏」「羽貫さん」「城ヶ崎氏」「相島氏」など、森見作品を彩る名脇役たちも登場。

京都・夏・大学生・四畳半、「四畳半神話大系」にもとづいて書かれているのだから当たり前なのだが、森見ファンが大好きなトピックスがこれでもかと散りばめられていて、「これを求めてたんだよ!」感が半端ない。

森見ファンなら、絶対に読むべき作品だ。

一方で、あまり森見作品が好きではない、もしくは全く読んだことがないという人にはどうかというと、そういう方々にも比較的おすすめしやすい作品だと、個人的には思う。

「サマータイムマシンブルース」を原案としているため、もちろんそちらを知っている人には、また違ったテイストとして楽しめるだろうし、かなり「サマータイムマシンブルース」要素が強いので、森見ワールドがあまり得意でないという人にも、単純に物語として楽しむことができると思うからだ。

実際僕は、大学1年くらいのときに、映画「サマータイムマシンブルース」をツタヤでDVDを借りて観た。その一回きりだったので、話の大筋は覚えていたが、細かいところまでは記憶に残っていなかったので、森見ファンとして「四畳半神話大系」要素を存分に味わいながら、「サマータイムマシンブルース」の物語としての面白さも十分に感じることができた。

読み切るまでにおそらく2時間もかからなかったはずだ。もとが戯曲なだけに、話のテンポがよく、中だるみすることもないので、普段読書をあまりしない人にもおすすめできる。

また、森見ファンからしたら、言うまでもないことだが、装丁のカバーイラストデザインは、アジカンのCDジャケットでおなじみの、人気イラストレーター・中村佑介。やっぱり中村佑介の描く、黒髪ショートカットの女性は美しい。特に横顔が最高ですね。

カバーイラストの背景色である、淡いエメラルドのような色が、なんともオシャレ。作中で明石さんが飲んでいるラムネの色だろうか。

本の内容だけでなく、このようにモノとしてもおすすめなので、ぜひ近くの本屋で買って読んでみてほしい。

森見“愛”を語る

『四畳半タイムマシンブルース』の紹介は以上だが、せっかくなのでここからは、僕の森見登美彦“愛”を語っておきたい。

はじめて森見作品を読んだのは、大学1年生のとき。大学入学のため、地元を出て東京で一人暮らしをはじめたときだ。

自宅最寄り駅のすぐ近くに有隣堂書店があって、そこで何か面白そうな本はないかと探していた時(本はわりと昔から好きだった)、ふと目に止まったのが、当時角川文庫から出ていた『夜は短し歩けよ乙女』だった。

たしか、「今、大学生に読んでほしい本」みたいなPOPがつけられて売られていた記憶がある。もともとアジカンが好きでよく聴いていたこともあり、そのカバーイラストにそそられて、ほぼジャケ買いに近い感覚で買って帰ったのだった。

いざ『夜は短し歩けよ乙女』を読みはじめて、すぐにドハマリした。舞台や境遇は違えど、自分も物語の主人公と同じ大学生。あそこまで自堕落な生活を送っていたつもりはないが、どこか共感できるところもあった気がする。それでいて、京都という街がなんとも妖しく、かつ魅力的に描かれていて、一瞬で虜になった。

その後、『四畳半神話大系』『太陽の塔』といった、『夜は短し』以前の作品を読んですっかり大ファンになったあと、『きつねのはなし』や『宵山万華鏡』を読んで、「こんなテイストもあるのか」と感心し、続いて読んだ『有頂天家族』では大いに笑って、泣いた。

森見作品の中で一番好きなのが『有頂天家族』なので、いつかこれについても紹介記事を書いてみようと思う。

あまりにハマりすぎて、異常なスピードで、その時点で刊行されていたすべての本を読破し、その後は新作が出るたびに、即購入して読み続けた。

ちなみに、エッセイなどの類もすべて読んでいる。

『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』という作品を知っている人はいるだろうか。エッセイ2編を含む、森見登美彦による京都のガイド本だ。作中にもよく出てくる京都市内のスポットが、美しい写真ともに紹介されていて、某有名ガイドブックなんかよりも、遥かに京都に行きたい欲を駆り立てられる。

そんな僕は大学3年生の頃、『森見登美彦の京都ぐるぐる案内』を片手に、夜行バスに飛び乗り、京都への一人旅に行った。たしか、はじめての一人旅だ。京都は高校の頃の修学旅行で行ったことがあったはずが、不思議と記憶はほぼ残っていない。男子高校生にとって寺社仏閣巡りは、退屈な時間そのものだった。

しかしそれからたった3年、『ぐるぐる案内』片手に巡った京都一人旅は、とんでもなく楽しかった。終始ワクワクしながら、聖地巡礼のような気持ちで、各スポットを巡ったのだった。

そのうちの1つ、京都左京区・京大近辺にある「カフェコレクション」は、『四畳半王国見聞録』にて、芽野と芹名が夕食をとっていたお店だ。僕もここで明太子パスタを食べた。森見作品の登場キャラになった気分で興奮していたため、味は全く覚えていない。たしか美味しかったはずだ。

森見作品を通して京都好きになった僕は、その後、妻と2回ほど京都旅行に行っている。そのうち1回は、念願だった祇園祭。旅行の直前、『宵山万華鏡』を読み返し、気持ちを作りきって僕は京都へと向かった。最高の旅だった。最後に、そのときの写真を少しだけ紹介して、今回の記事を終わりにする。

嵐山、渡月橋。京都旅行のはじまりは、嵐電に乗って嵐山に向かうことに決めている。

 

天龍寺、曹源池。庭園が美しい。

 

叡山電鉄に乗り、貴船へ。

 

目的は貴船の川床。流しそうめんを嗜む。

 

出町柳まで戻ってきて、鴨川デルタ。森見作中でもよく出てくる。

 

そして、祇園祭。妖しく煌めく。

 

夜の先斗町。細く暗い道に提灯や番傘。異世界に吸い込まれそうになる。

 

そして夜の鴨川。等間隔…というほどではないが、恋人たちが隣同士に並んでいる。

以上、最後は少し話が逸れましたが、森見登美彦の最新作『四畳半タイムマシンブルース』の紹介でした。